言語資源ワークショップ2026:プログラム

  • 参加に際しては、参加登録が必要です(参加費無料)。

  • 発表番号の末尾に「s」のついている発表は「言語資源ワークショップ:優秀発表賞」の対象となっています。

  • 口頭発表の時間は1件あたり30分(発表20分+質疑応答10分)です。

  • インタラクティブセッションはセッション冒頭の発表紹介が1分、 ブレイクアウトルームに分かれた後の持ち時間は1件あたり20分(+交代等5分)です。

各発表時間や休憩時間についてはこちらをご確認ください。
タイムテーブル





■ 1日目:08月20日(木)

8月20日(木)オープニング

時間:09:50〜10:00
場所:Zoom



8月20日(木)口頭発表 セッション A

時間:10:00〜12:00
場所:Zoom

A1s:マンガ会話コーパス構築における生成AI活用の可能性

発表者:王 芳(京都大学)

共著者:金丸 敏幸(京都大学)

使用する言語資源:マンガコーパスの構築方法について

本発表は、マンガ会話コーパス構築における生成AIの活用可能性を検討するものである。マンガ資料には、縦書き台詞、複数の吹き出し、コマの読順、話者推定、心内文と発話の区別、ルビの処理など、通常のOCRでは対応が難しい要素が多く含まれる。本研究では、ChatGPT、Gemini、Claudeなどの生成AIを用い、マンガページからの台詞抽出、発話順序の整理、話し相手情報の付与、さらに終助詞抽出の支援の可能性を検討する。特に、生成AIが作業効率化に寄与しうる工程と、人手による確認・修正が不可欠な工程を整理することで、マンガを対象とした会話コーパス構築の方法論を提示することを目指す。

A2s:日本語学習者縦断作文コーパス W-CoLeJa における助詞使用の発達分析 ―誤用・多様性・複雑性の観点から―

発表者:井原 彩樺(同志社大学 文化情報学部)

使用する言語資源:W-CoLeJa

2026年3月、日本語学習者縦断作文コーパスW-CoLeJaが公開された。縦断コーパスは、日本語学習者の発達過程を継続的に分析できるという特徴を有し、その特性を生かした研究のさらなる展開が期待されている。本研究では、W-CoLeJaを対象とし、日本語学習者の発達過程研究への活用可能性を検討する。具体的な事例として、助詞使用の多様性と複雑性に関する指標を設定し、日本語学習者の助詞使用の発達過程を定量的に捉えることを試みる。本研究は助詞使用を対象とした事例研究であるが、本研究で示す分析の視点は、語彙や接続詞など他の項目にも応用可能である。W-CoLeJaを活用した日本語学習者の発達過程の研究の新たな分析の視点を提示することを目指す。

A3s:書籍における他動詞文の無生主語率について ―ジャンルの違いを考慮して―

発表者:岑 慧穎(京都外国語大学 大学院)

使用する言語資源:現代日本語書き言葉均衡コーパス (BCCWJ)

本研究は、国立国語研究所が構築した『現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)』を用い、出版書籍および図書館書籍を対象として、日本語の無生主語他動詞文の使用率とその分布特性を異なるジャンル間で考察したものである。研究では、「NがNをV」という検索枠組みに基づき、有生主語と無生主語を区別したうえで、出現頻度および調整頻度の両面から比較分析を行った。分析の結果、無生主語他動詞文の使用にはジャンル間で差異が認められた。第一に、無生主語他動詞文が全体に占める割合はジャンルによって異なることが明らかとなった。第二に、無生主語他動詞文の調整頻度にもジャンル間で差がみられた。総記・社会科学・産業・言語などの説明的ジャンルでは使用率が比較的低い一方、哲学、歴史、芸術・美術、自然科学・工学技術などでは高い値を示し、ジャンルごとに特徴的な分布傾向が確認された。

A4s:Corpus-based Analysis of Education Policy Discourse in Municipal Boards of Education in Kanagawa Prefecture

発表者:Mario DePavia(早稲田大学 大学院 日本語教育研究科)

使用する言語資源:自作の自治体会議録コーパス

Corpus-based research is a well-established methodology informing language acquisition and language education research. Increasingly, corpora have been used meta-pedagogically to perform discourse analysis on education policy documents (Mulderrig, 2024) and on discussions of education policy in national assemblies, including Japan’s own Diet (Yamamoto 2011). However, the discourse of municipal Boards of Education (BoE)--the administrative assemblies closest to education policy implementation--remains an unexplored domain.The construction of a corpus of municipal BoE meeting minutes enables explorations of discussion and implementation of public education across municipal borders. In addition to the construction of a corpus of all BoE minutes available on municipal websites across Kanagawa, this research demonstrates its utility by exploring a few of many questions for which it can provide insight. Specifically, this research analyses policy discussions of Japanese Second Language Education (JSL). It maps the distribution of JSL discussions temporally and geographically. It further compares terminological variants that are used conjunctionally to refer to JSL and JSL students (日本語指導, 日本語教育, 外国人児童, 海外にルーツを持つ子どもたち, etc.) and explores correlations between municipal population of foreign residents and frequency of these discussions. Through exploration of JSL policy dialogue, this research demonstrates how corpora can allow researchers to gauge how any given policy topic is prioritized in the routine discussion of municipal boards or local governments.



8月20日(木)招待講演(1)

超低資源言語ドキュメンテーションと品詞情報 ― 南琉球宮古語伊良部島方言のニューラルネットワーク (BiLSTM–CRF) による注釈自動化の取り組みから

時間:13:00〜14:00   場所:Zoom
発表者:下地 理則(九州大学)

フィールド言語学において、談話データは文法記述における最重要データと言って良い。しかし、談話データに対する注釈、すなわちインターリニアグロス付きテキストの作成は非常にコストが高いことで知られ、経験的には録音1分あたりおよそ40分から60分の作業を要する(下地2011、cf. Seifart et al. 2018)。母語話者に注釈の正確性を確認できる残り時間と現地調査にかかる予算が限られている危機言語研究にとって、 この莫大な注釈コストの一部を自動化することは極めて大きな価値を持つ。本研究では、南琉球宮古語伊良部島方言を対象に、小規模で透明性の高い BiLSTM–CRF モデルによる注釈パイプライン全体(形態素分割→品詞付与→グロス付与)を実装する。その際、「教師データとして利用できる完全注釈済みの談話は多くても約1時間分のみ」という、多くのフィールドワーカーにとって現実的な制約をあえて課し、60分の談話データを使ってモデルを多角的に評価する。操作するのは注釈そのものに関わる2つの要因、すなわち注釈の豊かさ(品詞層の有無)と量(6分〜47分の教師データ;12分の評価・調整データを分離後)である。実験の結果、品詞情報は文法グロスの精度を +4.4±0.7 ポイント改善し(5シードすべてで有意)、その効果はアクセスできる教師データが少ないほど大きくなることがわかった(データ4分の1で +11.6 ポイント)。今回の実験結果から言える一般化として、ある一定のグロス予測精度を達成する上で、品詞層を組み込んだ教師データは、組み込まない教師データの半分以下で済む。伊良部島方言におけるこの取り組みから言えることとして、通常の談話注釈において無視される品詞注釈が、低資源言語の談話注釈自動化において鍵を握っていること、そして、品詞注釈という一定のコストをかけることで、教師データの量を節約できるという大きなリターンがあることが挙げられる。この知見は当然、伊良部島方言に限らず、同じく低資源状況にある日琉諸語全般、そして同じ類型特徴を持つ膠着的言語全般に対しても適用可能であると考えられる。



8月20日(木)インタラクティブセッション(1)

時間:14:10〜15:40
場所:Zoom/ブレイクアウトルーム


本セッション発表者による1分間の発表紹介(14:10 〜 14:25)

セッション冒頭の発表紹介1分×発表者5人


Uルーム (14:25 〜 15:40)

U1s:OpenCHJ を活用した明治・大正期国定理科教科書コーパスの公開

発表者:呉 子凡(総合研究大学院大学/国立国語研究所)

共著者:金 賢眞(総合研究大学院大学/大阪大学), 小木曽 智信(国立国語研究所/総合研究大学院大学)

使用する言語資源:OpenCHJ, UniDic, Web茶まめ, 日本語歴史コーパス (CHJ)

本稿では、現在CHJの収録対象に含まれていない明治・大正期の国定理科教科書を対象に、画像資料からテキストデータを作成し、再利用可能なコーパスとして整備した成果について報告する。対象は、1910年刊行の第五学年用、および1918年刊行の第五・第六学年用の『尋常小学理科書』である。最終的には、コーパス検索システム「中納言」において、OpenCHJの一部として公開することを目標としている。データ整備にあたっては、まずオンラインで公開されている教科書画像を対象に、Geminiを用いてOCR処理およびTEI準拠XMLの生成を行った。その後、人手による内容確認を経て、OpenCHJの文書定義であるOCX miniに準拠した形式へ変換した。さらに、形態素解析と修正を行った。完成したデータはGitHub上でも公開し、従来は画像として閲覧するにとどまっていた資料を、検索・分析・再利用が可能なオープンリソースとして提供した。

U2s:「なんか」と「こう」はなぜ相性がよいのか ―フィラー連鎖「なんかこう」の慣習化をめぐる予備的検討―

発表者:呉 楚琦(Wu Chuqi)(一橋大学 大学院 言語社会研究科), 李 海琪(総合研究大学院大学 日本語言語科学コース)

使用する言語資源:日本語話し言葉コーパス (CSJ), 日本語日常会話コーパス (CEJC)

日本語の話し言葉では、フィラー「なんか」と「こう」が連続した「なんかこう」がしばしば観察される。本発表では、この2形式がなぜ強く結びつくのかを、『日本語日常会話コーパス』(CEJC)と『日本語話し言葉コーパス』(CSJ)のコアデータを用いて、頻度分布、共起強度、韻律的統合の3つの側面から検討した。その結果、以下の3点が明らかになった。①「なんか」の後続要素との共起強度(logDice)を比較したところ、「こう」は対話で9.88、独話で9.81となり、いずれにおいても比較対象中で最も高い値を示した。②連鎖「なんかこう」の共起強度は「こうなんか」に比べて、対話で9.63、独話で9.61とほぼ同程度であり、談話形式による大きな違いは認められなかった。③2要素間にポーズを伴わない例は対話で96.2%、独話で85.3%に達し、高い韻律的連続性を示す一方、同一アクセント句内への統合は部分的であった。以上から、「なんか」と「こう」の結びつきは、描写や言葉探索という使用環境の共有と両形式の機能上の相補性によって動機づけられ、反復使用を通じて一つの定型的な連鎖として慣習化しつつある可能性が示唆された。



Vルーム (14:25 〜 15:40)

V1:中国語母語話者向け日本語教材の構築手法に関する実践報告 ―教科書・過去問コーパスとWeb茶まめを活用して―

発表者:朱 勰(上海科学技術職業学院 国際融合高校)

使用する言語資源:Web茶まめ, 分類語彙表, UniDic, Gemini 3.1 Pro

本発表では、中国語母語話者向け日本語教材の構築手法について報告する。近年、生成AIや形態素解析ツールの普及により、教育現場においても言語資源を活用した教材開発が可能になっている。しかし、中国語母語話者の漢語知識を活かした教材設計の具体的な方法は十分に共有されていない。本教材は、中国語母語話者が既有の漢語知識を活用しながら日本語語彙を理解・産出できるよう設計したものである。そこで本研究では、中国の高等学校日本語課程標準および日本留学試験(EJU)への対応を視野に入れ、高校日本語教科書、JLPT・EJU過去問からコーパスを構築した。さらに、Web茶まめ(UniDic)を用いた形態素解析により頻出漢語を抽出し、難易度別語彙リストを作成した。その上で、生成AIを活用し、抽出語彙を段階的に組み込んだ教材テキスト「高校日本語漢字文」を試作した。発表では、コーパス構築から語彙抽出、教材生成までの具体的な手順を示し、言語資源および形態素解析ツールを活用した教材開発の実践事例として報告する。また、本手法が学習者や教育目標の違いに応じた教材設計へ応用可能であることについても考察する。

V2:日常会話における副詞「ちゃんと」の使用と機能 ―成人会話と親子会話を対象に―

発表者:江口 典子(国立国語研究所)

使用する言語資源:日本語日常会話コーパス (CEJC), 子ども版日本語日常会話コーパス (CEJC-Child)

本発表では、日本語日常会話コーパスおよび子ども版日本語日常会話コーパスを用いて、副詞「ちゃんと」の使用実態を検討する。親子会話と成人会話における用例を収集し、発話環境や用法に着目して詳細な分析を行う。両者の比較を通して、「ちゃんと」が用いられる場面や使用傾向の特徴について記述的に考察する。話し言葉のデータを対象とすることで、実際の使用実態を丁寧に記述し、会話における「ちゃんと」の用法の特徴について考察する。

V3:『日本語ゲームコーパス』前期データの概要と出現語彙リストの試行公開

発表者:麻 子軒(京都外国語大学)

使用する言語資源:日本語ゲームコーパス (JGC)

発表者が構築を進めている『日本語ゲームコーパス』(Japanese Game Corpus=JGC)のうち、1990年代発売のゲームを中心とする「前期データ」を対象に、4ジャンル(ACT、RPG、SLG、AVG)計12タイトルのデータ概要を報告する。具体的には、タイトル別の延べ・異なり語数、品詞・語種構成比、ジャンル別の特徴語などを提示し、ゲームテキストの語彙的・文体的特徴を概観する。本データは、ゲームにおける言語使用の特徴を明らかにするための資料であると同時に、日常会話や他のフィクション作品など異なるレジスターとの比較、さらにはゲームを日本語教育に活用するための基礎資料としても利用可能である。また、試行的なデータ公開として、各ゲームに出現する語彙リストを公開する。リストでは、出現環境をセリフ・ナレーションに区分した上で、語彙素、語彙素読み、品詞の情報を付与する。



8月20日(木)口頭発表 セッション B

時間:15:50〜16:50
場所:Zoom

B1s:談話行為がアノテーションされた人間-AI対話コーパスの構築

発表者:永井 宥之(奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科)

共著者:伊藤 和浩(東京大学), 白石 暖哉(奈良先端科学技術大学院大学/京都大学 大学院), 山崎 由佳(奈良先端科学技術大学院大学/京都大学 大学院), 若宮 翔子(奈良先端科学技術大学院大学), 荒牧 英治(奈良先端科学技術大学院大学)

使用する言語資源:日本語日常会話コーパス (CEJC), 今回の研究で構築した「NAIST人間-AIチャットコーパス」

人間とAIが日常的に対話を行う時代が到来し,人間とAIの対話が人間に与える影響への関心が高まっている.こうした状況下では,実際の対話において人間とAIがどのような行為を行っているかを詳細に分析する必要がある.そこで本研究では,人間1名とAI4体による文字対話を103セッション,合計11,232メッセージを収録し,各メッセージに談話行為タグを付与したコーパスを構築した.本発表では,データ収集,タグセットの設計,自動アノテーション,および他コーパスとの定量的比較を通じて,本コーパスの特徴を報告する.分析の結果,人間発話では情報提供や回答,AI発話では反復や肯定的フィードバックが多く,人間同士の対話コーパスとは異なる分布が観察された.これらの結果は,人間がAIを議論の相手として扱うとともに,AIの会話スタイルに影響を受ける可能性を示唆する.

B2:小型国語辞典と現代語コーパスは互いの語彙をどの程度カバーするか

発表者:小木曽 智信(国立国語研究所)

共著者:荻野 真友子(kotoba), 坂倉 基(小学館), 岡田 純子(国立国語研究所), 原科 有里(国立国語研究所)

使用する言語資源:現代日本語書き言葉均衡コーパス (BCCWJ), 日本語日常会話コーパス (CEJC), 昭和・平成書き言葉コーパス (SHC), UniDic, 分類語彙表

本発表では、小型国語辞典の見出し語と現代日本語コーパスの語彙との対応関係を定量的に分析する。対象とする『現代国語例解辞典第五版』の全見出し語について、短単位(UniDic語彙素ID)列への対応表を作成し、BCCWJ等の現代語コーパスにおける出現状況を調査する。これにより、国語辞典見出し語がコーパス語彙をどの程度カバーするか、また国語辞典見出し語のうちどの程度がコーパスから実例を取得できるかを、頻度情報とともに明らかにする。さらに、書籍・新聞・雑誌・ブログ、日常会話などのレジスター別にカバー率を比較し、小型国語辞典が現代日本語の各レジスターをどのように反映しているかを語彙的特徴とともに検討する。本研究は、辞書語彙と実使用語彙との対応関係を数量的に示し、辞典編纂における語彙選定のための基礎的知見を提供する。



8月20日(木)投票案内・終了挨拶

時間:16:50〜17:00
場所:Zoom





■ 2日目:08月21日(金)

8月21日(金)オープニング

時間:09:50〜10:00
場所:Zoom



8月21日(金)口頭発表 セッション C

時間:10:00〜12:00
場所:Zoom

C1:データを考慮した言葉づかいの分析 -少年マンガと少女マンガを比べてみた-

発表者:西澤 萌希(早稲田大学)

使用する言語資源:少年マンガと少女マンガを対象として、Excel にセリフを文字起こしし、私用される語彙要素をタグ付けした後、テーブル機能を使って簡易的な検索を可能にしたデータ

言葉づかいとキャラの結びつきに関する分析への個人的な活用を目指して、フィクション作品の言葉づかい(自称詞、スタイル、音変化等の使用)を簡易的に検索できるデータを作っている。本発表では、少年マンガと少女マンガのデータを比較し、言葉づかいの特徴を分析する。少年マンガや少女マンガは、ターゲット層の違い等から、収録される作品の内容や言葉づかいの偏りが予想される。そこで、自称詞、終助詞、スタイル、音変化、ぞんざいな語彙の使用に注目して、それぞれのデータを量的に概観し、原文に立ち返って分析した。結果、ジェンダーと結びつく表現について、語彙の偏りはほぼなく、スタイルに偏りが見られた。また、少年マンガは「役割語度」が高く非日常的なキャラ、少女マンガは日常に根ざしたキャラと結びつく言葉づかいがよく見られた。言葉づかいに関して少年マンガや少女マンガをデータとする場合、以上のような偏りを意識する必要があろう。

C2:The KISTEC Search Interface の概要: KIT Speaking Test Corpus の普及に向けて

発表者:田中 悠介(熊本学園大学)

共著者:瀬戸口 彩花(都城市立明和小学校), 近 大志(富山大学), 神澤 克徳(京都工芸繊維大学)

使用する言語資源:The KIT Speaking Test Corpus 専用の Web インターフェースとして開発した The KISTEC Search Interface

本発表では、The KIT Speaking Test Corpus (KISTEC) の検索・分析を支援する Web インターフェースである The KISTEC Search Interface を紹介する。KISTEC は、日本人英語学習者によるスピーキングテスト解答の書き起こしから構成されるコーパスであり、書き起こしには発話特徴を捉えるタグが付与されている。また、学習者の属性、スピーキングテストの得点(総合得点および設問別得点)、TOEIC L&R スコアを含むメタデータが付随している。本インターフェースでは、KWIC 検索、コロケーション分析、語彙リスト作成、特徴語抽出、N-gram 分析に加え、得点、性別、設問による絞り込みや、CSV 形式での検索結果の出力が可能である。本発表では、言語資源としての KISTEC の利活用を促進する観点から、本インターフェースの機能を紹介する。

C3:BCCWJ および CEJC を用いた終助詞「ね」「よ」の全体頻度と機能別頻度の調査: 日本語教育への応用

発表者:原 里咲子(神戸大学 国際文化学研究科)

使用する言語資源:現代日本語書き言葉均衡コーパス (BCCWJ), 日本語日常会話コーパス (CEJC)

日本語では、聞き手や読み手への配慮を示す終助詞の「ね」や「よ」が幅広く多用される。日本語教科書にもこれらを含む用例は多数出現しているが、各々の出現傾向や、優先的に学ぶべき典型的用法についてはほとんど説明されていない。そこで本研究では、BCCWJとCEJCを用い、2語の出現頻度、および、主要な意味機能別頻度について調査を行った。分析の結果、全体として「ね」が頻出することや、書き言葉・話し言葉差に加え、「疑似的話し言葉」を特徴づける意味機能の存在も示唆された。得られた知見は、中上級の日本語学習者向けの教材開発などに活用が可能と考える。

C4:BCCWJ と CEJC を用いた「は」と「が」の出現状況調査: 外国人学習者のための日本語指導の指針を求めて

発表者:李 宏宇(神戸大学 大学院 国際文化学研究科)

使用する言語資源:現代日本語書き言葉均衡コーパス (BCCWJ), 日本語日常会話コーパス (CEJC)

日本語教育では「受容のための文法」から「発信のための文法」への転換の必要性がうたわれているが、発信の際には、文法的正確性に加え、書き言葉と話し言葉の差や、談話場面の差を加味した談話的適切性が求められる。「は」と「が」の使い分けについては膨大な先行研究が蓄積されているが、海外の日本語指導の現場ではそれらの成果が活かされることは極めて少ない。本発表では、海外教室学習者向けの「は」と「が」の指導指針を探るべく、BCCWJとCEJCを用い、両語の総体頻度と主要意味機能別の頻度調査を実施した。調査の結果、「は」は書き言葉において優勢となること、「は」の主題用法は話し言葉で増えること、「が」の機能別頻度は書き言葉・話し言葉の差の影響を受けにくいことなどが明らかになった。



8月21日(金)招待講演(2)

LINEヤフーにおける言語処理の研究開発

時間:13:00〜14:00   場所:Zoom
発表者:颯々野 学(LINEヤフー株式会社)

本講演では、企業における言語処理の研究開発の特徴を振り返りながら、LINEヤフーでの取り組みの一部を紹介する。社内で広く利用されている言語処理APIプラットフォームや、社外向けのテキスト解析API (2026年2月 UniDic 品詞体系準拠の形態素解析公開)、近年の研究発表などを取り上げる。さらに、各種API、辞書、コーパスなどの言語資源を活用する MCP(Model Context Protocol)ツールと LLM ベースの支援ツールを組み合わせ、研究開発を促進する方法についても述べる。



8月21日(金)インタラクティブセッション(2)

時間:14:10〜15:40
場所:Zoom/ブレイクアウトルーム


本セッション発表者による1分間の発表紹介(14:10 〜 14:25)

セッション冒頭の発表紹介1分×発表者8人


Xルーム (14:25 〜 15:40)

X1:小中高校教科書に収録される語彙の変化

発表者:呂 建輝(大阪大学)

使用する言語資源:統合型日本語語彙データベース J-CLID

新学習指導要領の施行により、小中高校で使用される教科書も順次に改訂された。これにより、教科書で学習する語彙にはどのような変化があっただろうか。本発表では、統合型日本語語彙データベースJ-CLIDを使い、2005年に出版された教科書と、2020年以降に出版された教科書に出現した語彙を比較し考察を行う。さらに、形態素ベースと語彙ベースとで収集した語彙にはどのような違いが見られるかについて考える。

X2:共通漢字を持つ単漢字和語動詞と漢語サ変動詞の語彙リスト作成に向けて

発表者:劉 雨涵(総合研究大学院大学日本語言語科学コース)

使用する言語資源:現代日本語書き言葉均衡コーパス (BCCWJ), 分類語彙表, 『語の文体値データ』 (馬場 俊臣 2022), 『日本語を読むための語彙データベース』 (松下 達彦 2011), 『日中対照漢字語データベース』 (松下 達彦ほか 2025)

本研究では、日本語に多数存在する、同じ漢字を共有する単漢字和語動詞と漢語サ変動詞のペア(例:「整える-整理する」「考える-考察する」)を対象とし、語彙リストの作成を目指す。BCCWJ頻度表の上位1万語から該当する和漢動詞ペアを抽出し、頻度、文体値、和漢間の意味的距離、分類語彙表情報、自他性、日中対応関係、日本語教育語彙レベル、学年別漢字配当等のデータを集め、情報として付与する。これにより、現代日本語における和漢動詞ペアの使用実態を量的に示すともに、今後行う類義語習得研究等のための基礎的データを提供する。さらに、日本語教育や国語教育に資するよう、作成した語彙リストは公開する予定である。語彙指導・作文指導、及び教材開発等への応用が期待できるものである。

X3:『浮世床』の翻刻とコーパス化に向けたアノテーション

発表者:髙橋 雄太(国立国語研究所)

使用する言語資源:日本語歴史コーパス (CHJ), UniDic

本発表では、滑稽本『浮世床』のコーパス化にあたっての、①電子テキストの作成、②アノテーション、③形態論情報の整備の3つの過程における課題と対応について述べる。①について、式亭三馬による初編・二編を全集テキストから、瀧亭鯉丈による三編を発表者が翻刻することでコーパステキストを作成し、崩し字資料に基づく本文作成では、字体・誤植・絵や記号への対処が課題となった。②について、滑稽本の分析に求められる話者情報・文体情報・ルビ情報等の、「中納言」表示項目に関するアノテーション方針を定めた。③について、原則は『日本語歴史コーパス 江戸時代編』の「Ⅰ洒落本」「Ⅱ人情本」の処理に従いつつ、特に未知語や臨時的な造語、掛詞、話者表示、短単位を超える振り仮名を持つレコードの処理について方針を定めた。



Yルーム (14:25 〜 15:40)

Y1:「おいしい文学描写データセット」に見る食描写の特徴

発表者:設樂 馨(武庫川女子大学)

共著者:加藤祥(北海道大学)

使用する言語資源:現代日本語書き言葉均衡コーパス (BCCWJ), Web茶まめ, 分類語彙表, 北海道立文学館特別展展示

文章表現における「おいしい」という評価が何に基づくのかを調査した。「おいしいもの」の描写として学芸員が選定した表現を収集し,描写対象物を含むBCCWJ(書籍・文学)の用例と対照することで,「おいしい」と評価された文章表現の特徴と「おいしい」と評価される要因を分析した。収集した「おいしい」と評価された用例は,北海道立文学館で開催された特別展「おいしい! 美味い!! 文学Ⅱ」において,「おいしいもの」の描写として選定され,展示されていた文学作品中の文章例(約100例)である。調査の結果,「おいしい」と評価されて選定された文章群においては,描写の量,使用語彙,構文をはじめ,提示順序や提示される位置情報に特徴が見られることが明らかになった。

Y2:「いけいけ」「どんどん」「おせおせ」はどう書かれるか

発表者:柏野 和佳子(国立国語研究所)

使用する言語資源:現代日本語書き言葉均衡コーパス (BCCWJ), 昭和話し言葉コーパス (SSC), 昭和・平成書き言葉コーパス (SHC), 新聞記事, ネット記事, X など

サッカーの北中米ワールドカップ(W杯)の、現地6月20日(日本時間21日)に行われた、日本代表とチュニジア代表との対戦時に、解説を行っていた本田圭佑氏が「いけいけどんどん」と発言した。これが、またたくまに、Xでポストされ、Yahoo!リアルタイムでは、「イケイケドンドン」「イケイケどんどん」「いけいけどんどん」の3パターンがランクインされ、「いけいけドンドン」はランク外であった。この表記ゆれを考察するに際し、「いけいけ」「どんどん」に、「おせおせ」を加え、書き言葉コーパス等の表記傾向を調査した。その調査結果をもとに、これらの表記ゆれの傾向について報告する。

Y3:愛知・岐阜における間接疑問文の埋め込み節標識のバリエーション -日本語諸方言コーパスに基づいた調査報告-

発表者:佐藤 久美子(国立国語研究所)

使用する言語資源:日本語諸方言コーパス (COJADS)

標準語では、間接疑問文の埋め込み節標識として「カ」や「カドウカ」が現れる(例:「誰が来たカ知らない」「太郎が来たカドウカ知らない」)。諸方言における標識のバリエーションを方言文法全国地図で見てみると、「カ系」と「ヤラ系」の二つの形式に大別されることが分かる。近畿を中心に「ヤラ系」が集中しており、その外側に「カ系」が広がっている。そして、これらの形式の境界となっている愛知と岐阜には「カ系」「ヤラ系」を含めて複数の形式が存在し、また、標識そのものが現れないことがあると報告されている。本研究ではこの二地点について、日本語諸方言コーパス(COJADS)を用いた調査を行い、間接疑問文の埋め込み標識の形式と各形式の出現環境を記述する。特に、埋め込み節標識の有無を条件付ける環境を明らかにする。



Zルーム (14:25 〜 15:40)

Z1:日本語句末音調における上昇下降調と上昇調のピッチ曲線の比較

発表者:李 海琪(総合研究大学院大学 日本語言語科学コース)

使用する言語資源:日本語話し言葉コーパス (CSJ)

日本語の句末音調には、上昇調や上昇下降調などがある。そのうち、上昇調はピッチが単純に上昇するタイプの句末音調であり、上昇下降調はピッチが上昇した後下降するタイプの句末音調と定義されている。しかし、両者の間に連続性があり、ピッチが上昇した後下降しても上昇調に知覚・判定されるケースが存在する。「上昇下降調」と「上昇調のピッチ曲線を比較するために、『日本語話し言葉コーパス』のコアデータの学会発表とスピーチを対象に、上昇下降調と上昇調に判定されたものはそれぞれどのようなピッチ曲線を持っているかについて調査した。

Z3:音響指標データベースの構築と公開: 南バントゥ諸語の摩擦音の事例

発表者:鈴木 成典(国立国語研究所 非常勤研究員)

共著者:李 勝勲(国際基督教大学/ヴェンダ大学), 坂本 誓(国際基督教大学 言語学ラボ)

使用する言語資源:JSAntu データ

本発表では、南バントゥ諸語の九言語に焦点を当てた言語資源の構築とその公開について発表を行う。言語資源には、処理のされていない録音音声ファイルからアノテーションの施されたデータおよびそのデータを基盤とした文法の記述などがあるが、さまざまなデータベースではほとんどが未処理の録音として公開されており、分析に用いることのできる言語資源となっていない。そこで本プロジェクトでは、南バントゥ諸語の音声データのPraatを用いた処理および音響指標の抽出を行い、摩擦音の長さおよび周波数の平均・標準偏差・尖度・歪度などの音響指標データのcsvファイルをオープンアクセス・データリポジトリZenodo上にアップロードすることで、音声分析を行う際に使用可能な言語資源の構築と公開を行う。



8月21日(金)口頭発表 セッション D

時間:15:50〜17:20
場所:Zoom

D1:日本語時制・アスペクト表現に対する学習者コーパスのアノテーション設計 ―I-JAS と教室データを対象として―

発表者:Vasilev Todor(神戸大学 大学院 国際文化学研究科)

使用する言語資源:多言語母語の日本語学習者横断コーパス (I-JAS), 授業内で収集した日本語学習者作文・文法課題データ

本研究では、日本語学習者コーパスであるI-JAS(International Corpus of Japanese as a Second Language)を対象に、時制・アスペクト表現の習得過程をより詳細に分析するためのアノテーション設計を提案する。まずI-JASを用いて、既存のデータおよび注釈から把握可能な学習者の特徴を分析するとともに、時制・アスペクトの習得過程を記述する上で十分に明示されていない情報や注釈項目を整理する。さらに、授業内で収集した学習者データに対して新たな注釈を付与し、I-JASとの比較を通してその有効性を検証する。特に、時制・アスペクト形式、時間的解釈、誤用の特徴、発達段階などの観点から分析を行い、既存コーパスを補完するアノテーションの可能性を示すとともに、日本語教育および第二言語習得研究に資する言語資源としての活用について議論する。

D2:中間言語対照分析における話者背景情報の組み込み ―I-JAS for CIA Integrated Face Sheet および I-JAS for CIA V2.0 の開発―

発表者:石川 慎一郎(神戸大学)

使用する言語資源:多言語母語の日本語学習者横断コーパス (I-JAS)

統制的なタスクデザインに基づき、多様な参加者からデータを集めた「多言語母語の日本語学習者横断コーパス」(I-JAS)(迫田, 2020)は中間言語対照分析(CIA)に適した言語資源であるが、「中納言」上でもダウンロード版データを使っても、習熟度をそろえた対照研究は実施困難である。この点を解決するため、報告者は、I-JASに含まれる膨大な産出データを1枚のエクセルシート上に展開するとともに、習熟度・母語・タスクをキーとしたデータ抽出を可能にしたI-JAS for CIA V1.0(石川, 2024)をリリースした。ただ、I-JAS for CIAには学習者の詳細背景情報は内包されておらず、男女比較や、動機づけタイプ別比較などは依然として実施困難のままである。そこで、I-JASの「フェイスシート」データを精選・整理し、主要項目(動機づけ、使用教科書等)を0/1コード化したI-JAS for CIA V2.0を新規に開発した。本発表では、実施した作業の詳細と、新しいシートで可能になる研究実例について報告する。

D3:言語変種を表す複合語「〜訛(り)」の諸相 -「NDL Ngram Viewer」と「国立国会図書館デジタルコレクション」を用いた素描-

発表者:岡田 祥平(新潟大学)

使用する言語資源:NDL Ngram Viewer, 国立国会図書館デジタルコレクション

日本語には、「田舎訛(り)」「東京訛(り)」のように後部要素に「訛(り)」を用いて特定の言語変種を表現する複合語が存在する。この種の複合語は『日本国語大辞典 第2版』には約30語、『デジタル大辞泉』には7語、それぞれ立項されている。ただ、現実にはそれら以外にも現在用いられているもの、あるいは過去に用いられていたものがあると思われるが、その実態は詳らかではない。そこで、本発表では、この種の複合語について、「NDL Ngram Viewer」の正規表現検索により前部要素になり得る語を抽出したうえで、それら(100語強)を前部要素とする複合語「〜訛(り)」について「国立国会図書館デジタルコレクション」により用例を確認し、使用実態を経年変化、媒体、ジャンルといった観点から整理する。これらの結果から、日本語社会において「訛り」として表象されてきた言語変種の範囲と、この種の複合語が使用されやすい時期・ジャンルを明らかにする。



8月21日(金)クロージング

時間:17:20〜17:30
場所:Zoom