言語資源ワークショップ2023:プログラム
参加に際しては、参加登録が必要です(参加費無料)
発表番号の末尾に「s」のついている発表は「言語資源ワークショップ:優秀発表賞」の対象となっています。
口頭発表の時間は1件あたり30分(発表20分+質疑応答10分)です。
ポスター発表の時間は1セッションあたり45分です。
タイトルおよび発表者の情報は申込時のものをそのまま使っています。
■ 1日目:08月28日(月)
08月28日(月)オープニング
時間:9:10〜9:20
場所:Zoom
08月28日(月)口頭発表セッション1(Oral Day1 AM-1)
時間:09:20〜10:50(1件あたり30分、発表20分+質疑応答10分)
場所:Zoom
o01:学習者コーパス研究における横断・縦断データ統合の意義:I-JASとB-JASをめぐって
発表者:石川慎一郎(神戸大学)
使用する言語資源:多言語母語の日本語学習者横断コーパス(I-JAS)、Web茶まめ
学習者コーパスには、1名ないし数名の学習者のL2学習過程を長期にわたってモニターし、その間、数回(いわゆるUカーブの検証を可能にするため、一般的に3回以上が必要とされる:Ployhart & Vandenberg, 2010, p. 97)にわたってL2産出を収集する縦断コーパス(longitudinal corpus)と、ある一時点において、年齢ないし習熟度の異なる多様な学習者のL2産出を一斉に収集する横断コーパス(cross-sectional corpus)とが存在する。横断コーパスの分析にあたっては、年齢や習熟度を習得段階になぞらえる疑似縦断分析(pseudo/quasi-longitudinal analysis)が広く行われてきたが(Johnson & Johnson, 1999)、縦断コーパスを直接的に観察した結果との関係性は必ずしも明らかでない。本発表では、同等のタスクに基づいて横断的/縦断的にデータを収集した2つのコーパスを比較し、分析結果の整合性を検証する。
o02-s:介護分野における専門用語の平易化に向けた語彙リストの構築
発表者:黄 海洪(京都大学大学院人間・環境学研究科)、金丸 敏幸(京都大学国際高等教育院)
使用する言語資源:現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)、NTT令和版単語親密度データベース, 介護用語の平易化言い換えリスト
われわれは、介護分野において社会に馴染みの薄い専門用語を、平易な日本語(Plain Japanese)という考えに基づいて誰もが理解できる言葉へと言い換える語彙リストを構築した。言い換え対象となる語は、次の2段階で選定した。まず、介護福祉士国家試験を元にした介護コーパスを構築し、現代日本語書き言葉均衡コーパスとの比較を行って介護コーパスの特徴語を抽出する。次に、NTT単語親密度データベースとクラウドソーシングを用いて、抽出された特徴語の単語親密度を調査する。調査の結果、一般の方と専門家との間で親密度の差が1以上あった語を対象語とする。これらの結果、言い換えの対象語は73語となった。その後、介護分野における日本語教育に知見のある専門家4名に協力を得て、用途に応じた3種類の言い換えを作成した。本リストは、介護分野への理解の助けとなるほか、今後増加が見込まれる外国人介護人材への日本語教育にも活用できると考えられる。
o03-s:日中対訳コーパスの構築と公開に向けて
発表者:宮本華瑠(大阪大学 人文学研究科 日本学専攻基盤日本学コース基盤日本語学講座)
使用する言語資源:自作日中対訳コーパス
昨今、公開された日中対訳コーパスには,北京日本学研究センターの『中日対訳コーパス』,情報通信研究機構の『NICT多言語対訳コーパス』,JST・NICT共同で構築された『アジア学術論文抜粋コーパス(ASPEC)』,そして,先日公開された『GSK通訳データベース(JNPCコーパス)日中・日西サブコーパス』などがあげられる.しかし,『中日対訳コーパス』に関しては2021年以降,個人・機関問わず対訳コーパスの入手はできなくなっている.そして,『NICT多言語対訳コーパス』は機械翻訳の研究またはシステム開発の一環として構築されたものでデータは非公開となっており,『ASPEC』コーパスは,専門用語が多く含まれており,広く一般的に用いられる言語使用とは言えない。同様に『JNPCコーパス』に関しては,記者会見における登壇者の発話とその同時通訳8件,逐次通訳2件,1件平均1時間半の対訳データが収録されているが,これもレジスターの偏りが問題となる。即ち,日中対照研究を行う研究者が利用できるコーパスは,極めて限定的で,言語資源が乏しい状況であることが読み取れる.発表者は個人利用を目的に2009年から対訳文の収集を始めていたが,この成果物を個人利用に留めるのではなく,オープンにすべきであると考えている。収集済みデータには,雑誌『Taiwan Panorama』約45万字,『聞く中国語』2018年~2021年(48冊)のデータ約176万字,『人民網』ニュース対訳文2014年7月~現在のデータ約272万字が含まれる。今回の発表では,重点的に次の三つの部分について述べることになる。1)収集済みデータの紹介 2)実用に向けた事例紹介 3)著作権問題についての示唆 が含まれる。
08月28日(月)口頭発表セッション2(Oral Day1 AM-2)
時間:11:00〜12:00(1件あたり30分、発表20分+質疑応答10分)
場所:Zoom
o04-s:近代中国語関係書における自律移動表現の日中対照研究
発表者:金 敬玲(國學院大學大学院文学研究科)
使用する言語資源:近代日本の中国語関係書
近代日本の中国語関係書はほとんどが外国人である日本人により作成され、当時中国語を外国語とする教育・学習のためのものである。近年、中国語関係書を中国語教育史や中国語学の分野で取り上げる研究は盛んに行われており、さらに「日本語文が現れているもの」や本文が中国語文のみのものを翻訳した「日本語文のみのもの」もあることから、それを近代日本語の資料として取り上げられる研究も少なくない。本発表は、「中国語」としても、「日本語」としても、その価値が認められる近代中国語関係書を資料に、日中対照研究を試みる。日本語と中国語は、同一の移動事態を表現するにあたり、「様態」「経路」「直示」の情報が競合することなく表現できる点で同じタイプの言語と見做すことができる。本発表は、『華語跬歩』と『華語跬歩総訳』に見る自律移動事象を表す文を対象に、当時の日中両言語の自律移動表現を考察することを目的とする。
o05-s:説明的文章の要点把握のための読解方法の有効性評価に用いる正解文データセット(CAKeS)の作成
発表者:渡邉幸佑(兵庫教育大学)
使用する言語資源:説明的文章の要点把握のための読解方法の有効性評価に用いる正解文データセット
国語科の「読むこと」の指導において、説明的文章の要点(キーセンテンス)を把握する読解方法が教えられている。これまで様々な読解方法が提案されてきた。しかし、そのような読解方法によりどの程度正確に文章の要点を把握できるか定量評価はされていない。他方、情報科学の自動要約の研究では、コンピュータによる要約を定量評価する方法がある。その一つに、要点として本来抽出すべき重要な文(正解文)と、コンピュータが抽出した文(抽出文)の一致度を測るものがある。この評価を実施するためには、人手で正解文を定める必要がある。しかし、国語教科書の説明的文章を対象に正解文を定めたデータセットはない。そこで、説明的文章を対象に研究力者3名と正解文を設定した。どの文を正解文とするかについて研究協力者間での判断は概ね一致したため、今回定めた正解文は、要点として本来抽出すべき重要な文とみなせる。
08月28日(月)招待講演1
国立情報学研究所における言語資源共有の取り組み
時間:13:00〜14:00
場所:Zoom
発表者:大須賀 智子(国立情報学研究所 データセット共同利用研究開発センター)
国立情報学研究所のデータセット共同利用研究開発センターでは,「情報学研究データリポジトリ(IDR)」や「音声資源コンソーシアム(SRC)」を通じて,産学界で構築・保有している各種言語資源を大学等の研究者に提供している。本講演では,この活動の紹介とともに,データの受入,提供,提供後の管理等の各段階における課題や,データの作成者,利用者として研究者の皆様に留意いただきたい事項についても情報共有したい。
08月28日(月)口頭発表セッション3(Oral Day1 PM-1)
時間:14:10〜15:10(1件あたり30分、発表20分+質疑応答10分)
場所:Zoom
o06-s:親疎関係で見る上昇下降調の使用率―『日本語日常会話コーパス』を用いて―
発表者:李海琪(浙江大学 日本語科)
使用する言語資源:日本語日常会話コーパス(CEJC)
親疎関係がイントネーションを影響する要因の一つであることが知られているが、上昇下降調の使用率と話者間の親疎関係について定量的な分析が不十分である。本研究では『日本語日常会話コーパス』のコアデータから42会話(延べ話者数122名)を抽出し、句末音調のラベリングを話者ごとに統計し、親疎関係によって上昇下降調の使用傾向について調査を行った。結果として、上昇下降調の使用率は、「家族親戚(6.40%)<友人知人(8.10%)<仕事関係者(10.20%)」であり、カイ二乗検定で有意差が見られた(χ2=163.57、df=2、p< .001)。親しさでは「家族親戚>友人知人>仕事関係者」と考えられるが、上昇下降調の使用率が話者間の親しさとの負の相関が示された。日本語母語話者の日常会話では、丁寧さがより必要となる相手に、上昇下降調がより頻繁に使われる傾向があるという示唆を、日本語学習者に与えることができる。
o07-s:論文指導の場面における終助詞「かな」の配慮機能―『BTSJ日本語自然会話コーパス』のデータから―
発表者:劉悦(筑波大学人文社会科学研究群国際日本研究学位プログラム日本語教育専攻)
使用する言語資源:日本語自然会話コーパス(BTSJ)
本発表は、『BTSJ日本語自然会話コーパス』から論文指導の場面における終助詞「かな」の配慮機能を明らかにすることを目的としている。分析は論文指導の会話データから終助詞「かな」を抽出し、個々の文脈情報を踏まえて「かな」の機能を確認し、機能カテゴリーごとにまとめるという手順で行った。その結果、学生の発話では39件の使用例が確認されたが、そのうち、31件が「意見・考えを述べる」という機能カテゴリーに分類された。また、教師の発話では75件の使用例が確認され、「意見・考えを述べる」「回答を要求しないように質問する」「助言を行う」「相手の意見を完全に受容することができない態度を示す」という機能カテゴリーに分類される「かな」の使用が確認された。本研究により、論文指導の場面において、立場の上下に関わらず教師も学生もさまざまな機能の「かな」を活用し、対人配慮を示していることが明らかになった。
08月28日(月)口頭発表セッション4(Oral Day1 PM-2)
時間:15:20〜16:20(1件あたり30分、発表20分+質疑応答10分)
場所:Zoom
o08-s:程度副詞使用実態の横断的・縦断的調査―「通時話し言葉コーパス」の試み―
発表者:日暮康晴(筑波大学大学院 人文社会ビジネス科学学術院 人文社会科学研究群 国際日本研究学位プログラム)
使用する言語資源:日本語話し言葉コーパス(CSJ)、日本語日常会話コーパス(CEJC)、昭和話し言葉コーパス(SSC)
本研究では『昭和話し言葉コーパス』(SSC)、『日本語話し言葉コーパス』(CSJ)、『日本語日常会話コーパス』(CEJC)を使用し、程度副詞「とても」とその類義語の使用実態についての横断的・縦断的調査を実施した。横断的調査の結果、SSC内の比較からは独話環境では「ひじょうに」の使用が特に多く、会話環境では複数の語が同程度使用されること、CSJ・CEJCの比較からは独話環境では「ひじょうに」、会話環境では「けっこう」、「すごく」の使用が特に多いことが分かった。縦断的調査からは、語によって使用傾向の変化に異なりがあり、使用頻度が高い語の中でも使用場面が狭まる語と広がる語に分かれることが分かった。また、主な使用場面が変化する語も確認された。使用場面が通時的に広がる語に注目した用例の検討からは、使用傾向の変化には類義語間の選択傾向の変化だけでなく、程度副詞の談話標識化という用法自体の変化が関わっていることが示唆された。
o09-s:「歩きスマホ」のコロケーションと意味―新聞データベースを用いた使用実態調査―
発表者:王鑫(筑波大学、言語学)
使用する言語資源:現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)、国語研日本語ウェブコーパス 中納言版(NWJC)、ヨミダス歴史館(読売新聞データベース)
コーパスの収録年数の関係で、「歩きスマホ」のような比較的新しい表現の研究はBCCWJなどのコーパスでは難しく、新聞データベースを調べることで可能になる。「歩きスマホ」は典型的な「自動詞連用形+モノ名詞」型複合名詞(例:空き巣)とは、以下のようなところで異なる。一つは複合名詞全体の意味がモノを表せないこと、もう一つは「歩き」と結合された「スマホ」が、本来、語用論的な意味にすぎない「(スマホをする)行為」の読みにしか解釈できないことである。本研究は、まず、新聞データベースを通して、「歩きスマホ」「立ち湯」「寝タバコ」などの複合名詞のコロケーションと意味を調べ、その相違を明らかにする。次に、「歩きスマホ」を代表とした複合名詞は、主要部を持たない、並列の複合語としての特徴を持ち、ナガラ節に相当するような修飾関係が可能になっていると主張する。
08月28日(月)ポスターセッション1(Poster Session1)
時間:16:30〜17:15
場所:Zoom/ブレイクアウトルーム
p11-s:国語科教科書の説明的文章における疑問-解答の段落構成―各学年テキストの比較から―
発表者:尾崎誉治(東北大学文学研究科)
使用する言語資源:小学校・中学校の各社国語科教科書における説明的文章のテキストデータ(小学校:平成26年検定分、中学校:平成27年検定分)
段落とは、何らかの内容的なまとまりを持った文章中の構成要素である。国語科の学習において、段落中の内容のまとまりや、内容に応じた文章中での役割を理解することは重要な意味を持つ。そのため、特に国語科教科書のテキストは、文章中の構造が学習できるよう、発達・学習段階に応じた配慮がなされているものと考えられる。本発表では、国語科教科書における説明的文章のテキストデータを用いて、テキスト中の改行1字下げによる段落の構造を分析する。1文1段落を中心とする小学校1年生のテキストをはじめとして、各学年の教科書テキストにおける段落の構造がどのように変化していくのかを分析することで、段落の実態を把握し、児童・生徒がテキストから段落によるまとまりを学習していく過程を考察する。
p12-s:アーカイブデータを利用した言語研究とその応用可能性
発表者:鈴木成典(国際基督教大学大学院アーツ・サイエンス研究科、日本学術振興会特別研究員)、鎌野慈人(ストーニーブルック大学大学院)、坂本誓(国際基督教大学RA)、鎌倉欧亮(国際基督教大学教養学部)、Seunghun Lee (国際基督教大学, ヴェンダ大学)、Yu Yan(立命館大学)、Jeremy Perkins(会津大学)、五十嵐陽介(国立国語研究所)
使用する言語資源:fo0245: 日本語音声における韻律的特徴の実態とその教育に関する総合的研究
本発表では、国立国語研究所の共同利用型共同研究で利用可能である豊富な音声データベースに対して、我々が実際に行っている音声データの処理方法を紹介する。使用したデータベースは大規模な録音実験に基づくものであり、1000人以上の話者の録音が存在する一方で、方言ごとに刺激リストが異なっている。そこで、初めに各方言の録音を確認し、セクション・刺激・話者が識別可能なアーカイブIDを作成した。その際、同一方言内の話者間でも刺激の順番や繰り返しの回数にばらつきが確認されたが、PraatスクリプトやExcelを用いることで対応を可能とした。産出実験を実施する際、必ずしも刺激リストの語彙や順番の通りに録音されないため、本処理方法を用いることでアーカイブデータを利用した今後の研究に役立てることができるだろう。
p13:コンパクトなLLMによる古典日本語生成
発表者:近藤泰弘(青山学院大学(名誉教授))
使用する言語資源:日本語歴史コーパス(CHJ)、UniDic
大規模言語モデル(LLM)技術の急速な進展があるが、200億パラメタ以下の、ローカルなPCでも実行可能なコンパクトなLLMを使う実験ならば、文系の普通の研究室でも実施することが可能である。主にそれらを用い、実際に古典日本語を生成させることで、現代語とは異なる、どのような問題点があるかを指摘し、意見交換を行う。また、ベクトル検索を用いた、古典語の取扱についても検討する。
p14:書籍の文体と修辞機能の分析のパイロットスタディ
発表者:田中弥生(国立国語研究所)、柏野和佳子(国立国語研究所)、加藤祥(目白大学)
使用する言語資源:現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)
本発表は、書籍の文体的特徴と修辞機能及び脱文脈度の相関を検討する研究のパイロットスタディである。柏野(2013)は文体を分類するための指標として、専門度、客観度、硬度、くだけ度、語りかけ性度の分類指標を提案し、現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)の図書館サブコーパスに情報を付与している。本研究では、ランダムに選択されたサンプルに修辞機能分析の分類法によってアノテーションを行い、修辞機能と脱文脈度を特定し、統計的手法により、各サンプルの分類指標との相関を確認する。修辞機能分析では分析単位である節の時制や主語の分類から修辞機能と脱文脈度が特定される。文体的特徴と関わりのある言語表現が明らかになれば、文章の産出時に印象を操作することが可能になり、文章表現指導などに活用できると考える。
p15:ゲームコーパスの設計方針と構築方法
発表者:麻 子軒(関西大学)
使用する言語資源:ゲームコーパス
麻子軒(2022)「テレビゲームコーパスの構築とその利活用」(『言語資源ワークショップ発表論文集』2022)では、ゲームコーパスの構築理由とそれを用いた研究事例を提示された。しかし、ゲームコーパスを体系的に構築するにあたり、その目的を明確にした上で、それに合わせた形で発売年代やジャンルの諸観点から代表的なゲームを選定する必要がある。また、ゲームの場合はプレイヤーの操作によって表示されるテキストの内容と量が変化するため、テキストの認定基準をはじめとする構築方法は、書籍をベースとしたコーパスと異なるように考えられる。以上を踏まえて、本発表ではゲームにおける言語的特徴の解明と日本語教育への応用との二つの目的を意識し、ゲームコーパスの設計方針について述べる。なお、テキストの認定基準、電子化の方法、及び構築時の問題点についても言及する。
p16:二字漢語の意味的透明性における仲介語の検討:同一サンプル内での出現位置に着目した調査
発表者:本多由美子(国立国語研究所)
使用する言語資源:現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)
本多(2022)では二字漢語の意味的透明性の調査において、二字漢語「入院」の構成漢字「院」に対する「病院」を「仲介語」と呼び、二字漢語と構成漢字、仲介語の組合せをまとめている。仲介語は辞書の記述から抽出されているため、両者の意味には関連性がある。しかし、仲介語の分析は出現頻度を集計したものが中心で十分とは言えない。そこで本発表では同一テキスト上の二字漢語と仲介語の関連性を分析する。BCCWJを用い①二字漢語とそれに対応する仲介語が同一のサンプルに出現する傾向と、②両者が同一のサンプルに出現する場合の出現位置の間隔を調べた。調査に用いた二字漢語と仲介語の組合せは本多(2022)のリストからランダムに選んだ30組である。その結果、①二字漢語とそれに対応する仲介語が同一のサンプルに出現する割合は約12~88%で幅があり、② ①の割合が高いほうが、二字漢語と仲介語は前後の文に続けて出現する傾向が見られた。【引用文献】本多(2022)『二字漢語の透明性と日本語教育への応用』くろしお出版
p17:テキスト生成型AIによる研究課題のクラスタリング分析
発表者:中渡瀬秀一(国立情報学研究所)
使用する言語資源:科学研究費助成事業データ
本稿では、昨年登場した対話型生成AIを活用してた国語研のJSPS課題を分類する。分類は課題の特徴に注目しまた採択時期ごとに行うことで、その経年変化を明らかにし、研究トレンドの理解を深めることを目指す。
■ 2日目:08月29日(火)
08月29日(火)ポスターセッション2(Poster Session2)
時間:9:35〜10:20
場所:Zoom/ブレイクアウトルーム
p21:読書感想文の分析と指導法―書き出しと結びに注目して―
発表者:加藤恵梨(愛知教育大学)、角谷昌範(愛知教育大学附属岡崎小学校)
使用する言語資源:愛知教育大学附属岡崎小学校文集「ひばり」
本発表の目的は、愛知教育大学附属岡崎小学校で発行している児童文集「ひばり」(2019年~2023年の5年分)に収録されている読書感想文を調査資料とし、それらがどのような書き出しで文章がはじまり、どのような結びで文章が終結しているのかを明らかにすることである。また、低学年・中学年・高学年によって書き出しと結びに違いがあるのかについても分析する。さらに、調査結果をもとに、読書感想文の書き方について指導する際、教師はどのような点に注意して指導したら良いかについて提案する。
p22:中古和文資料『夜の寝覚』のコーパス構築の試み
発表者:菊池そのみ(筑波大学)、菅野倫匡(筑波大学)
使用する言語資源:日本語歴史コーパス(CHJ)、UniDic、本研究において構築している『夜の寝覚』のコーパス
本発表は中古和文資料の1つである『夜の寝覚』を対象とし、そのコーパスを構築する試みについて述べるものである。まず、中古和文資料『夜の寝覚』の概要と既に着手している計画の全体像とを説明する。次に『夜の寝覚』の本文に形態素解析を施した上で誤りを人手で修正して品詞や語種などの情報を整備する作業について現在の進捗状況を報告する。続いて既に作業を終えたデータの一部を用いて語彙史・文法史研究に資する調査の事例を紹介する。
p23:日本語学習者の語りに見る語彙学習ストラテジーのプロセス
発表者:安芝恩(なし)
使用する言語資源:日本語学習者の語彙学習ストラテジーに関するインタビュー調査の発話データ
日本語学習者の語彙学習は、日本語教育現場の諸事情により、自律学習の形で行われているという状況にある。本研究は、このような状況の中で、日本語学習者がどのように語彙を学習しているのか、その語彙学習ストラテジーのプロセスを明らかにすることを目的としている。日本語学習者9名を対象に、半構造化インタビュー調査を行い、M-GTA分析を行った。その結果、日本語学習者は、人的リソース(日本語講師、日本人、クラスメート)、または、物的リソース(辞書、推測、インターネット)の語彙学習ストラテジーを使用していることが確認された。また、授業での意味検証の過程を経て、人的・物的リソースによる語彙学習の整合性の判断を行っていることが確認された。
p24:日本語地図課題対話においてソ系指示詞はいつ使われるか?
発表者:川端良子(国立国語研究所)
使用する言語資源:日本語地図課題対話コーパス(マップタスク)
日本語には、特定の対象を指す表現に「コソア」の3つの系列があることが知られている。しかし、実際の談話を観察すると、「コソア」のいずれの指示詞も使用せずに特定の対象を指す場合の方が圧倒的に多いことに気が付く。これまでの研究では、「コソア」それぞれの指示詞の間でどのような意味や用法に違いがあるかということが、議論の中心となっており、どのような場合に「コソア」指示詞が使用されるのかという問題についてはあまり議論されていない。本発表では、『日本語地図課題対話コーパス』(マップタスク)を用いて、特にソ系の指示詞がどのような場面で使用されるのかについて分析した結果について報告する。
p25:『分類語彙表』への多義語の意味増補のための『計算機用日本語基本辞書IPAL』との対照
発表者:柏野和佳子(国立国語研究所)、大阿久志緒理
使用する言語資源:分類語彙表、情報処理振興事業協会(IPA)GSK配布版「計算機用日本語基本辞書IPAL―動詞・形容詞・名詞―」(2007年)
『分類語彙表 ―増補改訂版―』(国立国語研究所, 2004年)では、増補の際に基本的な多義語は多重分類するということが行われていた。しかしながら、基本的な多義語の意味がどこまでカバーされているかの検証は行われていない。そこで、『分類語彙表』での分類と、情報処理振興事業協会(IPA)GSK配布版「計算機用日本語基本辞書IPAL―動詞・形容詞・名詞―」(2007年)に収録されている多義語の意味との対照調査を行った。それにより、『計算機用日本語基本辞書IPAL』で扱われている基本的な意味が『分類語彙表』に未分類である場合が多いことを量的に明らかにする。この調査結果を踏まえ、『分類語彙表』に増補すべき多義語を提案する。
p26:『子ども版日常会話コーパス』の構築に関する中間報告
発表者:小磯花絵(国立国語研究所)、居關 友里子(国立国語研究所)、柏野和佳子(国立国語研究所)、川端良子(国立国語研究所)、田中弥生(国立国語研究所)、西川賢哉(国立国語研究所)
使用する言語資源:子ども版日本語日常会話コーパス(CEJC-Child)
国立国語研究所共同研究プロジェクト「多世代会話コーパスに基づく話し言葉の総合的研究」(2022〜2027年度)では、2022年3月に公開した『日本語日常会話コーパス』(CEJC)で不足する子どものデータを補充するために、子どもを中心とする多様な場面・相手との会話を対象とする映像付き『子ども版日本語日常会話コーパス』(CEJC-Child)の構築を2022年度から進めている。収録対象は8世帯12名の子どもであり100時間規模のコーパスを目指す。本発表ではCEJC-Childの構築状況などについて報告する。
p27:『日本語日常会話コーパス』にみる日常会話音声の基本周波数と談話行為の関係
発表者:石本祐一(ものつくり大学/国立国語研究所)
使用する言語資源:日本語日常会話コーパス(CEJC)
様々なタイプの日常会話をバランス良く納めた『日本語日常会話コーパス』(CEJC)の公開により、これまで大規模な分析を行うことが困難であった日常生活における音声の多様性が観察できるようになった。先に、CEJCを基にした調査により日常会話においては会話相手の属性によって発話の基本周波数が異なる傾向を示すことが観察された。本稿では音声の多様性の更なる検証として、CEJCに付与されている発話の性質を表す談話行為情報に着目し、日常会話音声の基本周波数と談話行為との関係を調べた結果を示す。
08月29日(火)口頭発表セッション5(Oral Day2 AM)
時間:10:30〜12:00(1件あたり30分、発表20分+質疑応答10分)
場所:Zoom
o10:形態的豊かさと語順自由度との相関関係:類型論の視点
発表者:李 文超(中国浙江大学日本語科)
使用する言語資源:Stanza tookit
形態と統語との関係において, 格標識が豊かであればあるほど語順の自由度が上がる (complexity trade-off) (Sapir 1921, Jakobson 1936, MacFadden 2003, Sinnemäki 2014, Yan and Li 2021, 李, 劉と熊 2022)。本研究は数理言語学の手法を用いて, 70か国の言語を横断的に、格標識の豊かさ, 語順の自由度, そして両者の相関関係を分析する。形態的豊富さを測定するにPython自然言語処理ツールキットであるStanzaとspaCy-Thaiを使用し、moving-average morphological richnessとmoving-average mean size of paradigm両指標を使った。各国語順の自由度の測定に、Pythonの言語処理ツール「GiNZA」を使い、Cosine similarityとword order entropy両指標を使用した。次の2点にたどりついた。第1に, 膠着型、孤立型、抱入型と屈折型の言語データに基づいた形態的豊富さと語順の自由度の度合いが正の相関関係にある。第2に, 決定木分析に導かれた70か国の言語の区画にI類、II類とIII類とに分かれ, オーストロネシア語族、アルタイ語族、日本語、韓国語、東部ウラル諸語とインド・ヨーロッパ語族、ニジェール・コンゴ語族(ナイジェリアのイボ語; ベナンのフォン語)とアフロ・アジア語族(アラビア語)に三分的偏在する。
o11:Subjective frequency norms for 100 Japanese verb-verb compounds: The first step toward constructing a behavioral database for Japanese compound words
発表者:姚一佳(上智大学)
使用する言語資源:現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)、構築中の語彙データベースを使用する。本データベースは、日本語複合動詞100語の語彙特性(長さ、隣接語数、出現頻度、親密度、習得時期、意味的透明性など)を提供する。また、実際に母語話者と学習者に対して行われた行動実験(閾上プライミング課題、閾下プライミング課題)で得られた反応時間データも参照できる。
Lexical frequency has been used in previous studies to investigate how compound words are processed in the mental lexicon. Since the work of Balota et al., (2007), a growing number of databases have been constructed using normative and performance data of compound words (for English, see Juhasz, Lai, & Woodcock, 2015; for French, see Bonin, Laroche, & Méot, 2021; for Dutch, see Brysbaert, Stevens, Mandera, & Keuleers, 2016; for Chinese, see Tse et al., 2017), which make it possible to investigate and compare the mechanism of compound processing across languages. However, despite the fact that compound words are prevalently used in Japanese, to the best of our knowledge, such database have not previously been constructed for Japanese compound words. This study reported two subjective ratings and six corpus-based objective frequency estimates for 100 Japanese verb-verb compounds: familiarity, age-of-acquisition (AoA), whole-word surface frequency, whole-word lemma frequency, first-constituent surface frequency, first-constituent lemma frequency, second-constituent surface frequency, second-constituent lemma frequency. The validity of these frequency estimates was examined by using correlational and hierarchical regression analyses. Negative correlation was obtained between the familiarity and AoA ratings, indicating that more familiar compounds tended to be rated as being of earlier-acquired words by native speakers of Japanese. Moreover, the whole-word lemma frequency was the best single predictor of both familiarity and AoA ratings, revealing that when native speakers of Japanese are asked to rate a compound verb on a particular variable, the compound verb is processed as a whole unit. These normative data should be beneficial to researchers who are interested in selecting stimuli for psycholinguistic experiments, and it will also help us to gradually construct a normative and behavioral database for Japanese compound words. (This research was supported by JSPS KAKENHI Grant number 22K20032).
o12:用言の結合価に見る,体言のブランチング
発表者:青山文啓(桜美林大学大学院)
使用する言語資源:IPAL
《あした結婚式がある》に対して《あそこに結婚式場がある》という。「結婚式」も「結婚式場」も見出し語〈結婚〉の複合語として辞典には載せられる。こうして《あした学校がある》と《あそこに学校がある》から,見出し語〈学校〉にも二つの用法が認められる。「結婚式」のように場所と結ばれる建物としての「学校」と,「結婚式」のように日付と結ばれるイベントとしての「学校」である。こうした視点から〈学校〉に二つの用法を認める例は市販の辞典ではめずらしい。しかし,一つの用言が体言どうし(あるいは副用言と)を結びつける結合価情報に,単文の基礎を置かないかぎり,どのような用法記述(ブランチング)にも体系性は見いだせなくなるだろう。 動詞の自他,他動詞ペア,アスペクト,補助用言スル,形容詞,助詞の下位区分などから例をあげ,結合価の有用性について論じる。
08月29日(火)招待講演2
Building collaborative language resources with and for language communities
時間:13:00〜14:00
場所:Zoom
発表者:李 勝勲(国際基督教大学)
The creation of multi-lingual resources with community members remains a challenging area. This talk will identify issues concerning the creation of collaborative language resources by showcasing language archives such as Nuosu Yi Digital Archive (NYDA) and Bantu Language Digital Archive (BantuDArc). While NYDA is an archive with quadri-lingual interface to reflect the needs of the speech community, BantuDArc is a multi-lingual archive of languages of multiple Bantu languages. The talk will also discuss issues concerning the sharing of materials in an open-access archive.
08月29日(火)口頭発表セッション6(Oral Day2 PM)
時間:14:10〜15:40(1件あたり30分、発表20分+質疑応答10分)
場所:Zoom
o13:中世期日本語比喩表現の収集の試み
発表者:菊地礼(国立国語研究所)
使用する言語資源:日本語歴史コーパス(CHJ)、分類語彙表
本発表は、日本の中世期のテクストから比喩表現を収集する試みについて報告する。現在、日本語の比喩表現の研究は、現代語を中心としてデータベース化が進められている。実証的な研究の機運が高まっている。一方で、古語は内省の効かない研究対象であるため、実例ベースの研究が求められる。しかし、日本の古語の比喩表現を実証的に研究するための研究資源が整備されていない。そのような現状を鑑み、『日本語歴史コーパス』に『分類語彙表』の意味番号をタグ付けした「CHJ-WLSP」を用いて、日本の古語、特に中世期(鎌倉~室町)のテクストから比喩表現を収集し、分析に必要な情報のアノテーションを行う。本発表はプロジェクトの概要と現状の作業済みデータの分析例を報告する。特に、『方丈記』『虎明本狂言集』から収集した比喩について、比喩がどれほど使われていたか、どのような種別の比喩が使われていたか、比喩を構成する意味カテゴリーの特徴について述べる。
o14:江戸期・明治期の日本語・琉球語訳『ヨハネによる福音書』パラレル・コーパスの構築と翻訳間の影響関係の分析
発表者:宮川創(国立国語研究所)
使用する言語資源:Web茶まめ、江戸期・明治期日本語訳・琉球語訳『ヨハネによる福音書』パラレル・コーパス
現存の聖書の日本語訳のなかで最も早いものはキリシタン資料における聖書の抄訳である。しかし、まとまった形での現存する最古の聖書和訳は、19世紀半ばにギュツラフがシンガポールにて刊行した『約翰福音之伝』(『ヨハネによる福音書』)と『約翰上中下書』(ヨハネ書簡3通)である。この後、ベッテルハイムの琉球語訳と漢和対訳を経て、江戸末期・明治初期にかけて、ヘボンやブラウンなどのプロテスタント訳、明治元訳、ニコライの正教会訳、ラゲのカトリック訳などが出版された。発表者はこれらの翻訳に含まれている『ヨハネによる福音書』のパラレル・コーパス(日本語7翻訳、琉球語1翻訳、アイヌ語1翻訳、翻訳元の可能性が高いギリシア語批判校訂版、英訳、ラテン語訳、ドイツ語訳、中国語訳)を作成し、JSON-LDとしてAPIを通じて外部にデータを提供できるシステムを構築した。本コーパスを用いて翻訳間の影響関係を分析・視覚化する。
o15:日本語教師向けWebコンテンツ「つくば語彙チェッカー」の概要
発表者:岩崎拓也(筑波大学)、波多野博顕、伊藤秀明
使用する言語資源:UniDic、リーディング チュウ太、日本語教育語彙表、日本語文法項目用例文データベース『はごろも』、EDR電子化辞書
本発表では、現在構築中の「つくば語彙チェッカー(仮)」についての紹介を行う。「つくば語彙チェッカー(仮)」は、web上で形態素解析を実行し、「リーディング チュウ太」、「日本語教育語彙表 Ver1.0」、「日本語文法項目用例文データベース『はごろも』ver.3」、「EDR電子化辞書」といったデータベースをもとに、頻度や語彙レベルを一括して確認することができる日本語教師向けのコンテンツである。また、この「つくば語彙チェッカー(仮)」は、入力したテキストから空欄補充問題などを作成することが可能な機能も搭載している。本発表では、これらの紹介に加えて、「つくば語彙チェッカー(仮)」の使いやすさ向上のためにどのような改修を行っているか、今後どのような機能を実装予定なのかについても紹介する。
08月29日(火)ポスターセッション3(Poster Session3)
時間:15:50〜16:35
場所:Zoom/ブレイクアウトルーム
p31:昭和女子大学近代文庫所蔵『與謝野晶子書簡』コーパスの設計
発表者:宮嵜由美(昭和女子大学人間文化学部日本語日本文学科)、日文コースプロジェクト5メンバー
使用する言語資源:SWU近代文庫『與謝野晶子書簡』コーパス
本発表では、昭和女子大学近代文庫所蔵の『與謝野晶子書簡』(以下、本與謝野書簡)をコーパス化するにあたっての設計と今後の展望を述べる。本與謝野書簡は昭和4年1月から14年2月にかけ、主に愛弟子であった近江滿子に送った書簡(巻物・原稿用紙・手紙・はがき)である。データは、2022年度昭和女子大学人間文化学部日本語日本文学科のプロジェクト活動として学生20名とともにコーパス化を開始し、xlsx形式で入力を進めている。一文一行の体裁をとっており、全91通、1180行のデータである。本コーパスでは画像情報として書簡のデジタルデータとのリンク作業も開始したところである。より多くの研究に利用してもらうにはどのような工夫ができるか、本発表を通して検討を行いたい。
p32:近現代語コーパスにおける漢語「是非」
発表者:東泉裕子(東洋大学)、髙橋圭子(東洋大学)
使用する言語資源:現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)、日本語歴史コーパス(CHJ)、日本語話し言葉コーパス(CSJ)、日本語日常会話コーパス(CEJC)、昭和話し言葉コーパス(SSC)、名大会話コーパス(NUCC)、現日研・職場談話コーパス(CWCP)、昭和・平成書き言葉コーパス(SHC)
漢語「是非」は、中古までは「是と非」という文字通りの意味の名詞用法が中心であったが、中世には「是非(に)」という副詞用法が出現し、近世には「是非(に)」「是非とも(に)」の使用が増え、意志・希望の表現での使用と依頼・懇願の表現での使用が増加、「是非」の畳語化も見られるようになったという(玉村1991、2018)。本発表では、各種コーパスを利用し、近現代語における「是非」の用法を調査する。その結果、近現代語では大半が副詞用法であること、現代語の会話では「是非」単独や「是非是非」という畳語の形式で、勧誘に対する受諾の応答表現の用法も認められることが判明した。
p33:親子の共同行為場面における振る舞いの調整ーお菓子作りの事例からー
発表者:居關友里子(国立国語研究所)、小磯花絵(国立国語研究所)
使用する言語資源:子どもの会話コーパス
本発表では「子どもの会話コーパス」に格納予定の親子でのお菓子作り場面のデータについて、親子が作業に関する調整をどのように行い作業を進行させているのかに注目し記述を行った。親は活動の中で変化する難易度に合わせ子どもが行う作業を調節しており、これを示す発話と身体的振る舞いの観察をもとに、子どもは自身が作業に関わるタイミングや内容を見出そうと試み、その成功と失敗を繰り返しながら作業を進行させている様子が観察された。親子でのお菓子作りは、子どもが自身や他者が担う作業を理解するために、自身の注意を調整することについて学ぶ機会となっていると考えられる。
p34:近世読本コーパスの設計と活用―表記研究での利用を目指して
発表者:片山久留美(国立国語研究所)
使用する言語資源:日本語歴史コーパス(CHJ)、Web茶まめ、UniDic
本発表では、発表者が構築中の近世読本を対象とするコーパスについて、構築上の課題とその活用例を報告する。近世読本は白話語彙などの漢語が多く用いられ、同時代の他の戯作と比して漢字の使用が多いことが指摘されている。また、本行の漢字とルビとの対応関係を見ると、「白日」に対し「はくじつ/まひる」、「准備」に対し「こころかまへ/ようゐ」など、本行の漢字とルビが表す語が1対1で対応しない例が多く見られる。本発表ではまず、こうした特徴を持つ読本のテキストをコーパス化するにあたっての課題とその対処法について報告する。さらに、構築中のコーパスデータをもとに、語種や品詞ごとの漢字使用率、本行の漢字とルビの対応関係について整理を行い、読本の表記の特徴について計量的に明らかにすることを試みる。
p35:YouTubeを利用した関西方言アクセント辞書の作成(Building a Kansai accent dictionary using YouTube)
発表者:野口大斗(上智大学大学院言語科学研究科/東京医科歯科大学)
使用する言語資源:YouTube
関西方言のアクセント辞書のうち電子的にデータが利用できるオープンソースのものは管見の限り見られない。また、調査時期は古いものが多い。しかし、6万語を超える大規模な単語リストを読み上げてもらえる話者を21世紀に見つけるのは困難である。この問題を解決するために、ユーザー生成コンテンツを活用したアクセント辞書の作成の試みについて紹介する。YouTube Researcher Programの許諾を得て関西方言話者のYouTube動画をダウンロードし、音声ファイルを抽出する。抽出した音声に音声認識システムを使い、文字起こしする。文字起こしデータを用いてforced alignmentをおこない、各モーラのピッチを計算してフレーズの平均ピッチと比較することで高低を自動で付与する。データの量さえ担保できれば、この手法は他方言の記述にも利用できる。また、副産物として書き起こし結果を英語などへ一旦翻訳して逆翻訳すれば、対訳コーパスを作成することもできる。
p36:例外的な「基本形」:日本語会話における動詞終わりの発話
発表者:大野剛(アルバータ大学)、臼田泰如(静岡理工科大学)
使用する言語資源:日本語日常会話コーパス(CEJC)
本研究は,日本語会話において,末尾に動詞が来る発話は例外的なものであることを明らかにする.従来,特に欧米において,日本語の発話では末尾に動詞が置かれることが標準的であると繰り返し述べられてきた.しかし,実際の会話を観察すると,末尾に動詞が置かれる形で発話がなされる事例はむしろ少ないことに気づく.本研究ではまず,『日本語日常会話コーパス』を用いて,動詞が含まれる発話のうち末尾が動詞である発話の割合を調べた.その結果,動詞が末尾に置かれる発話は,動詞を含む発話のうち約2割にとどまることがわかった.さらに,その約2割は特定のいくつかの動詞に著しく偏っていることも示された.そのため次に,動詞で終わる発話のうち,特に多くを占める「違う」「思う」の事例を分析した.その結果,いずれも発話末においては意味が漂白され,応答やヘッジといった相互行為的機能を主に担う要素になっていることが明らかとなった.
p37:『分類語彙表』における多義語について
発表者:山崎誠(国立国語研究所)
使用する言語資源:分類語彙表
2004年に刊行された『分類語彙表増補改訂版』(以下、分類語彙表)はその「まえがき」によると、初版とくらべて多義語の処理を改良して、「同じ単語を意味に応じて何箇所にも出すようにした」と記述されている(P.6)。しかし、現代の小型国語辞書に掲載されている多義語と比べると、『分類語彙表』の多義語は掲出されている分類項目が少ないものがある。例えば、「切る」は『三省堂国語辞典第八版』では動詞のブランチが26個、造語成分としてのブランチが3個あるが、これら29個のブランチを『分類語彙表』と対照させると、単独の見出しがあるものが3個、「スイッチを切る」のように連語として見出しがあるものが5個で、計8ブランチしか対応していなかった。残りのブランチは、単独の見出しで掲出できそうなもの15個、連語として掲出できそうなもの4個、不明2個であった。本発表の目的は、使用頻度の高い多義語を取り上げ、『分類語彙表』に収録されていない意味を拾い上げ、増補の候補とすることである。
08月29日(火)ポスターセッション4(Poster Session4)
時間:16:45〜17:30
場所:Zoom/ブレイクアウトルーム
p41:教科学習における抽象的思考と結びつく言語形式ー数学における「とする」をケーススタディとしてー
発表者:新山聖也(筑波大学)、竹本理美(筑波大学非常勤研究員)、澤田浩子(筑波大学)
使用する言語資源:中学校数学教科書『新しい数学』(東京書籍)と中学校理科教科書『新しい科学』(東京書籍)のテキストを形態素解析したデータ
近年、日本語指導を必要とする外国人児童生徒が増加しており、教科学習に必要な学習言語能力の支援が問題となっている。本発表では、教科学習の中で求められる抽象的思考と結びつく言語形式を分析することを目的とし、中学校教科書のテキストを対象として形態素解析を行った。まず、数学教科書と理科教科書の比較から、共通して出現しやすい表現と特定の教科に出現しやすい表現が存在することを指摘し、ケーススタディとして数学に特徴的な文型として「AをBとする」に注目して分析を行う。「とする」の前後文脈、出現しやすい単元に関して分析を行い、数学では「とする」が具体的事象における要素と数式に出現する要素を同定し、立式の際に思考の枠組みを設定する用法で用いられることを指摘する。本発表の分析は、語彙だけでなく、特定の文型が教科学習で求められる抽象的な思考と結びつくことを示す事例として位置付けられる。
p42:『昭和・平成書き言葉コーパス』雑誌レジスターに見る順接・逆接の接続詞の通時的変化
発表者:近藤 明日子(東京大学)
使用する言語資源:日本語歴史コーパス(CHJ)、昭和・平成書き言葉コーパス(SHC)
本発表では、小木曽智信ほか(2023)『昭和・平成書き言葉コーパス』雑誌レジスターを用いて、昭和・平成期の非文芸ジャンルの書き言葉で使用される順接・逆接の接続詞の抽出・分析を行う。接続詞の抽出はコーパスから作成した短単位n-gramを使用して行い、接続詞の語形の量的な通時的変化や文体(常体/敬体)との対応関係を分析する。加えて、国立国語研究所(2019)『日本語歴史コーパス 明治・大正編Ⅰ雑誌』から同様に抽出した接続詞のデータと合わせて、近代から現代にかけての接続詞の通時的変化を概観する。
p43:抄物コーパス構築に関する課題と方策
発表者:古田龍啓(九州大学)
使用する言語資源:抄物コーパス
本発表では、構築中の抄物コーパスの概要を示すとともに、作業の過程において明らかになった課題を報告する。抄物は、中世後期を代表する口語資料であるが、いまだコーパス化が行われていない。現在、代表的な抄物のうち、写本を底本とする『中興禅林風月集抄』、古活字版を底本とする『中華若木詩抄』という二つの資料の校訂本文を作成し、XMLによるマークアップ作業を進めている。底本への忠実度、XMLタグの取捨選択など、抄物コーパス構築に際し直面した課題について、紹介する。
p44:実践医療用語_語構成要素語彙試案表 Ver.3 の公開にむけて
発表者:相良かおる(奈良先端科学技術大学院大学)、黒田航(杏林大学)、東条佳奈(大阪大学)、西嶋佑太郎(京都大学)、麻子軒(関西大学)、山崎誠(国立国語研究所)
使用する言語資源:『実践医療用語_語構成要素語彙試案表 Ver.2.0』
我々は、2022年3月に『実践医療用語_語構成要素語彙試案表 Ver.2.0』(以下、試案表Ver.2.0)を公開している。試案表Ver.2.0には、合成語7,087語とこれらを構成する語構成要素6,633要素、語構成要素に付与した意味ラベル41種を収録している。しかし、語分割する際の境界認定基準、意味ラベル、語構造の記述に以下のような問題があることが分かっている。 例えば、試案表Ver.2.0では「機能低下症」をひとまとまりの要素にしているが、機能[低下症]や[機能低下][症]のように分割することも可能である。そして、分割位置が変われば、語構成要素に付与される意味ラベルも異なる。また、「肋間動静脈損傷」の語構造は「[肋間[動静脈]]損傷」としているが、意味的な構造は「肋間動脈」と「肋間静脈」の損傷であり、意味的に正確な記述とはなっていない。 本発表では、これらの問題点と改訂版Ver.3.0の公開にむけての方針を述べる。
p45:科学技術系ライティング教育改善を目的としたシラバス分析のためのspaCY-GSDLUWを利用した日本語長単位解析
発表者:堀 一成(大阪大学 全学教育推進機構)
使用する言語資源:Universal Dependenciesのデータ、日本語アカデミック・ライティング科目のシラバスデータ
発表者らは、大学学部初年次生や高校生を対象とする科学技術系日本語アカデミック・ライティング指導を改善するため、日本語アカデミック・ライティング科目のシラバスデータを収集し、内容の分析を試みている。その際、シラバスデータの言語特徴を良く抽出するため、長単位形態素解析を行うことが有効ではないかと考えている。従来、長単位形態素解析に用いるソフトウェアは、Comainu-0.72を利用してきた。今回共同研究している者は、日本語教育が専門であり、言語分析の主要ツールとしてKH Coderを利用してきた。そのような共同研究者にとってComainuの導入は、困難をきたす作業であると予想された。これに対し、2022年に公表された新しい長単位解析システム spaCY-GSDLUWは、導入作業も容易で、分析の精度もより高いものである。発表申請時点では多数のデータを処理するための試行段階であるが、本発表では、研究の背景、ソフトウェア実行手順の説明、得られた試行結果に対する考察などを紹介する。
p46:雑誌コーパス作成の試みー2015年の資料をもとにー
発表者:東条佳奈(大阪大学)
使用する言語資源:Web茶まめ、現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)、自作雑誌コーパス
現在、現代語の書き言葉を対象とした研究においては、まずBCCWJで用例を収集してみるということが基本的な姿勢になっていると思われる。一方で、同時代における経年的な調査を行うことができる資料は限られている。例えば新聞資料では、毎年刊行されるCD-ROMを利用すれば、最新の資料を用いることも、数年おきの調査を行うことも可能である。しかし、同じマスメディアでありながら、雑誌資料については、BCCWJに収録されている2005年以降、新たに検索し得るものがない。そこで、本発表では、2005年の10年後にあたる2015年に発行された雑誌資料を用いて、小規模のプレーンコーパスの作成を行った。具体的には、複数のジャンルより選んだ48種の雑誌について、それぞれ冬・春・夏・秋の発行分(4冊)を資料とし、ここからランダムに抽出したサンプルについて電子化するという方法をとった。本発表では、作成中の本コーパスの概要を述べたうえで、活用法や課題について検討する。
p47:家庭での食事場面における親子会話の脱文脈度の観点からの分析
発表者:田中弥生(国立国語研究所)、江口典子(国立国語研究所)、小磯花絵(国立国語研究所)
使用する言語資源:子ども版日常会話コーパス
本発表は、子供の会話を修辞機能と脱文脈度の観点から検討する研究のパイロットスタディである。現在国立国語研究所にて構築中の『子ども版日本語日常会話コーパス』(CEJC-Child)に収録される予定のデータを分析対象とする。修辞機能と脱文脈度の観点からの分析には、修辞機能分析の分類法を使用する。これまで、この分類法によって、児童作文や高齢者のグループ談話、打ち合わせ時の会話などが分析され、学年による特徴や、テーマによる特徴などが明らかにされてきた。学校教育では、日常の文脈的な思考より、脱文脈化された思考様式が求められるという(岩田1995)。本発表では、主に就学前の幼児のコミュニケーションで脱文脈の観点からどのような特徴が見られるかを明らかにする。(岩田純一(1995).学校と発達 岩田純一・佐々木正人・石田勢津子・落合幸子(著)『児童の心理学』有斐閣 pp.32-50)
08月29日(火)クロージング
時間:17:30〜18:00
場所:Zoom